首都圏郊外に建つ、母のための終の住処。母の希望に沿って、光を潤沢に採りこみつつ、プライバシーが得られるかたちを探した。３階建も多い地域で、バリアフリー空間の一階を生活のコアとして明るく過ごす為に、2面道路から庭を挟んで引きをとり、最小限のボリュームにコントロールしながら2枚の差掛屋根で南東に向いた隙間をつくり、ハイサイドライトとして陽光を導いた。日中の居場所からの眺めの窓は、道に対し奥まって角度を振り、南に正対して光を取り入れながら庭へ視線を誘う。どの場所にいても外への抜けを持ち、庭への多様な関係を携えて、眺めという暮らしの喜びがあるように空間を構成した。
環境負荷の少ない建築を目指し、パッシブな形はもとより、断熱等級 6.5、Heat20 G2 以上 (UA 値:0.40 /地域 6) の断熱性能を確保し、建材は可能な限り国産材を中心に自然に還るものを選んだ。DIYに励み、地域の繋がりで入手した行き場のない木材を取り込んで内部の建材にアップサイクルした。庭は、私たちがコアメンバーとして関わる緑のまちづくり活動である「まちとみどりの実験室」と協働して、実験室のアドバイザーでもあるプランタゴの田瀬理夫さんの全面的なアドバイスの下、近しい流域植生の石神井氷川神社などから採取した在来種を、種や挿木から数年かけて育てたものを混植して壁面緑化を試みている。在来の野芝を貼りバイオネストを計画し、地域の生き物と繋がるちいさな緑の回廊となって、生物多様性に寄与する事を目指している。母の生家からは一番美味しい柿の木を移植し、敷地に建っていた大谷石の塀は全て敷地内で再利用し、アプローチの透かし積みの石組みとしてポーラスな環境をつくった。これら庭の要素は、変動してゆく厳しい気候の中でこの場に住む人間と助け合い共進化していくローカルでインタラクティブな環境として、将来受け継ぐ私たちの世代を中心に、選択除草や木陰にもなる果樹を増やすなどの楽しみをちりばめてメンテナンスしていく事を計画している。
老後に建てる建築のあり方の一つとして、世代を跨ぐ建築のつくり方を考える中で、射程の遠い時間に向き合い、社会の変化を見据えて、物質的な／あるいは生態的な地域の循環の中で、共進化の一部とし佇み・育ち・暮らしていく住処をつくりたいと考えた。